石碑2「瀧澤夫水の句碑」
石碑2「瀧澤夫水の句碑」の説明
宗匠瀧澤夫水の句碑は本荘公園本丸、本荘神社手前の木立のなかに建っています。
七草や 我に覚えし 粥の味
夫水70歳自賀の作で、その筆勢は独特で妙味に溢れています。句碑の建立は昭和13年(1938年)8月末ですが、夫水は昭和7年に亡くなっています。夫水とはどんな人だったのか、当時の新聞記事からひろってみます。
「本荘町前助役瀧澤潜氏厳父七郎翁は、29日74歳で遠逝した、翁は旧本荘藩家老の家に生まれ、資性温厚にして町民の信望を集め、旧士族の授産を目的とする報旧社の社長として奉仕すること多年、その後助役、町会議員、学務委員、耕地整理組合長等公私の重職にあげられまた蕉風の俳句に長じ、夫水宗匠として東北の斯界に重きをなせる人であった(以下略)」(鳥海新報:昭和7年8月第2号)
翁の一門秋唇会の面々にとって、夫水宗匠の句碑を建立する事は早くからの念願でした。
「本日新涼の鶴舞城頭において(中略)恩師瀧澤夫水宗匠の句碑除幕式を挙行するを得たるは秋唇会一門は、もちろん不肖夕雨の深く光栄とする処なり。去る7月29日は夫水翁の7回忌に当れば、それまで句碑建立を竣成致し度き念頭にて今春以来尽力中の処、象潟なる池田三申氏より恰好の碑材寄進になり、元気を得て計画を進め、首尾よく本荘町会の決議を得て、翁が在りし日春秋杖を曳きしゆかり深きここ本荘公園本丸に敷地を決定し得たるは、翁もさぞかし満足の御事かと思ふなり」
ですが激しくなる戦争は事を順調に運ばせませんでした。「建立次第書」はこう記しています。
「然るに本年は事変(日中戦争)戦歿者のため法要多く、石工は間に合わず、やむなく一と月おくれの今日除幕式を挙行することと相成れる次第なり。石工は余の俳友雄勝郡三関村の渡辺一石子にして、同職三人を伴ひ来たり朝は5時より夕刻7時までの精励ぶりにて、夫水翁独特の筆勢を具現し得て妙味津々たり、又台石の如き、600貫(2250キログラム)以上にて、山上への運搬すこぶる難渋なる処、吉田隆之助氏の援助により無事句碑の建立を了したるは去る22日黄昏深き頃なりし、工事中は仕合せにも晴天に恵まれ、万事順調に仕事の進行を得たり、夫水翁の徳望の然らしむる処とはいへ、各方面の御厚情ある御援助に依る処にして感激深く感謝する処なり、夫水翁の不朽の句碑に光輝あれと祈ると共に、全日本俳道の将来を謳歌するものなり、秋唇会代表小島夕雨」
句碑はこうしてみごとに出来上がりました。夕雨は更にこう語ります、
「金浦築港の海底から上げた石なども見た、句碑に仙台石のような扁平な石は断然いけないと前から思っていたので、わざわざ象潟の田の中の石に決めた、形もよかった、昔の名勝象潟の石、或は芭蕉の草鞋の跡がついてるかしらん石に夫水翁の句を刻むのは詩的だなと喜んだ。句碑の出来は非常によいとみんなに誉められて私は得意だった。夫水翁の姉君など碑面をなでて嬉し泣きにほんとに泣いた。龍水氏(夫水氏息)は、秋と春とを殊の外愛した父が、もう秋風の立ち初めた今日、ゆかりの深いこの城頭に碑を建ててもらったことをどんなに喜んでいるか知れないと語ったのには感動した」(鳥海新報:昭和13年10月第7号)
句碑の除幕式にあたって、本荘内外の多くの俳人が献句しました。
秋唇会代表の小島夕雨は「新涼や仰げば高き秋田不二」、翁の令息瀧澤龍水(潜)は「句碑に来て頻りにかかる蝉時雨」、二男の牧野芳樹は「蜩のしづまりはてて虫しげし」などと吟じていますが、碑を彫った湯沢の石工渡辺一石子は、「句碑成って新涼の鳥叫ぶなり」 という句を献じています。
以上は「鳥海新報」昭和13年10月第7号からの抜粋ですが、渡辺一石子についてはこんな後日譚があります。
「小島氏への句碑の贈り物:恩師の居室から自分の刻んだ句碑を眺めていただけたら幸いです―と俳句の教え児湯沢市の渡辺一石子から小島夕雨氏に句碑が贈られてきた。石は剣の型した黒石で高さは2メートル弱、句碑には小島氏の近作小春日や岬に一つ光るものと見事に刻まれている(略)」(市政だより昭和33年12月第9号)
同じ碑面の句碑が夕雨生誕100周年の日に文化会館前に除幕されましたが、小島邸にあったこの句碑はその後、本荘郷土資料館の中庭に移建されました。
「夕雨句碑除幕式:除幕式は8日午前11時から新山公園の現地で行われる。この句碑は湯沢市三関の石工渡辺一石子が夕雨宗匠を慕い、石材・彫刻一切寄贈したという師弟の美しい情愛のこもったもの。たまたまの鳥海晴れやはたた舟」(市政だより、昭和34年11月第6号)
この除幕式に夕雨宗匠は紋服袴で弟子の背に負われて参列しましたが、翌年元旦帰らぬ人となっています。
石碑2「瀧澤夫水の句碑」の位置
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