齋彌酒造店
齋彌酒造店がある石脇通りは、江戸時代には亀田藩岩城氏二万石の城下町亀田に並ぶ重要な商業地であり、北前船寄港地「石脇湊」の港町として栄えた、石脇の町の中心部です。この通りでは、古くから背後の標高約一四〇mの新山(しんざん)の伏流水を利用した醸造業が盛んであり、大正十三年(一九二四)の「本荘町業名録」によると、市内醸造業のうち五軒がこの通りに隣立し、酒造業をはじめ味噌醤油の醸造街が形成されていました。齋彌酒造店は、明治三五年(一九〇二)創業の酒造業の商家で、社名の「齋彌」は、創業者の齋藤彌太郎の名に因んだものです。
住宅および店舗や蔵は創業時のもので、店舗は通りに面して下屋庇(げやびさし)を差し出す構造とし、石脇通りの商家に特徴的な造りですが、二階には洋風のデザインを取り入れるなど、その意匠は独特です。店舗の東に庭を囲うように建つ住宅の外観は和風の意匠であり、店舗と好対照をなしています。
酒造りの工場敷地は新山の麓の傾斜地で、高低差は六mあり、土蔵造りの西蔵・中蔵・東蔵・壜蔵のほか、トラス構造の小屋組により、高く広大な空間を確保する釜場の工場群は、この斜面を利用して階段状に建てられています。一番高い場所にある精米所から酒造りが始まり、その下から湧き出る伏流水を利用して仕込み、貯蔵と傾斜に沿って工程が進み、その手前に事務所・店舗があり、石脇通りをはさんで壜(びん)詰工場という配置になっています。この醸造工場の造りは、酒どころの秋田県内でも、めずらしい構造として知られています。
本醸造元は、石脇の町が北前船交易で栄えた明治期に建築された商家建物と、当地の醸造業の発展がうかがえる酒造工場を伝えており、石脇通りの歴史的な町並みを物語る、貴重な景観となっています。
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