斉藤寅次郎と車寅次郎

男はつらいよ「フーテンの寅」のネーミングエピソード

 
 松竹の大ヒットシリーズ、山田洋次監督の「男はつらいよ」の主人公は、誰もが知ってるとおり渥美清が演じる車寅次郎ことフーテンの寅さんである。
 山田洋次監督がシリーズ作品を手がけるときに、松竹の城戸四郎会長に相談した結果主人公の名前が「寅次郎」に決定したようである。
 城戸会長は斉藤寅次郎が新進気鋭の監督として活躍してした頃の蒲田松竹の撮影所長であり、斉藤監督がヒット映画を連発していたのを身近で見ていた人物であった。
 このため、新しい映画の主人公に斉藤監督の名前を使い「車寅次郎」に決定し、映画のヒットを祈願した。
 その後、映画界から引退した監督は、「最近、寅次郎喜劇と称する輩が多い」との理由で、突然使い慣れた斉藤寅次郎から本名の寅二郎を使うようになった。
 やはり監督としては、「男はつらいよ」シリーズが流行して寅次郎の名前が喜劇の中で頻繁に使われていることが気に入らなかったようである。監督としては「寅次郎の元祖は私だ」という自負があったのであろう。

渥美清、山田洋次、斉藤寅次郎

 このことを聞いた山田洋次監督と渥美清が斉藤監督を訪ね、「長年監督の名前の寅次郎を使わせていただき申し訳ありません」とお詫びし、和解している。

 その後、山田洋次監督は「斉藤寅次郎という素晴らしい監督が活躍していた」と講演会等で語り、斉藤監督自身も「私の後継者は山田洋次君である」と語っていたこともあったようである。
 斉藤寅次郎と車寅次郎、映画を通じて名前が一致したエピソードである。